熊本県の慈恵病院が、親の事情で育てられない赤ちゃんを預かる「こうのとりのゆりかご」を設立したのは2007年のことです。
当時「匿名で赤ちゃんを置いていく」という行為に対しセンセーショナルに報じられましたから、記憶している方も多いでしょう。
あれから15年。実際に預けられた赤ちゃんも大人になり、自分の過去を冷静に受け止められる年齢になりました。
今回は、あの日あの場所に預けられた赤ちゃん「航一君」の現在と、この問題を世に知らしめるためにドラマ化された『こうのとりのゆりかご「赤ちゃんポスト」6年間と救われた92の命の未来』をご紹介したいと思います。
一見重苦しいテーマをはねのける温かい作品になっています。
年代問わず多くの方にご視聴いただき、この問題をどうとらえるか考えてみてください。
「こうのとりのゆりかご」に預けられた宮津航一君(実名)
「こうのとりのゆりかご」に預けられた赤ちゃんの一人、宮津航一君。現在は養父母の元で大学に通いながら、「こども食堂」の運営など地域の福祉活動に貢献されています。
航一くんの他にも、今も養護施設で暮らしている子、養子縁組をして幸せに暮らしている子、また、再び実のお母さんの元で暮らしている子などさまざまですが、みんな一生懸命生きているんです。
「こうのとりのゆりかご」の現状
「こうのとりのゆりかご」は2007年5月10日に設置され、21年3月末までに計159人が預け入れられています。初年度は17件でしたが、そのうちの9件は熊本県外からでした。
ピークは2008年度の25件ですがその後は徐々に減り、2020年度は過去最少の4件となったものの、相談件数は2020年だけで過去2番目に多い7000件と増加傾向にあります。
しかし、「こうのとりのゆりかご」の創設者で2020年に亡くなった蓮田太二理事長が、「預ける前にまず相談を」と唱えていましたから、その思いに近づいているとも言えますね。
赤ちゃんポスト利用状況
年度 | 件数 | 年度 | 件数 |
---|---|---|---|
2007年 | 17件 | 2014年 | 11件 |
2008年 | 25件 | 2015年 | 3件 |
2009年 | 18件 | 2016年 | 5件 |
2010年 | 18件 | 2017件 | 7件 |
2011年 | 8件 | 2018年 | 7件 |
2012年 | 9件 | 2019年 | 11件 |
2013年 | 9件 | 2020年 | 4件 |
▼ 2022年5月28日追記
同日の北海道新聞に関連記事がありました。
徐々に減っているのは「相談窓口が増えたから」という反面、時代の流れとともに「ゆりかご」の存在が薄れたから..というのでなければいいのですが。
『こうのとりのゆりかご「赤ちゃんポスト」6年間と救われた92の命の未来』
基本情報
放送 | 2013年11月25日 21:00-22:54 TBS |
---|---|
脚本 | 松本美弥子 |
プロデューサー | 戸田郁夫、那須田淳、鈴木早苗、堤慶太ほか |
ディレクター 監督 | 金子文紀 |
医療監修 | 杉本充引(日本赤十字医療センター) |
テーマ曲 | 千住 明「未来遺産」 |
受賞歴 | 2013年文化庁芸術祭賞テレビ・ドラマ部門優秀賞作品 |
主題歌
薬師丸ひろ子「僕の宝物」
作詞:玉城千春 作曲:海田庄吾
2:07~から歌が始まります。
キャスト
役名 | キャスト | 役柄 |
---|---|---|
安田裕美子 | 薬師丸ひろ子 | 聖母子病院看護部長 |
速水 啓二 | 綿引勝彦 | 聖母子病院理事長 |
及川 綾子 | 堀内敬子 | 聖母子病院助産師 |
今野 みどり | 江口のりこ | 聖母子病院看護婦 |
服部 純 | 安藤サクラ | 聖母子病院看護婦 |
百瀬 里奈 | 南明奈 | 聖母子病院看護婦 |
安田 正雄 | 宇梶剛士 | 裕美子の夫 |
安田 涼子 | 波瑠 | 裕美子の長女 |
安田 舞衣 | 杉咲花 | 裕美子の次女 |
安田 貴志 | 渡部秀 | 裕美子の長男 |
新山 歩美 | 有村架純 | 妊娠を隠している高校生 |
新山 寛子 | 富田靖子 | 歩美の母 |
保君のお母さん | 吉田羊 | 赤ちゃんポスト利用者 |
水谷 結 | 徳永えり | 赤ちゃんポスト利用者 |
片山 幸文 | 佐々木蔵之介 | 熊本市長 |
ナレーター | 安住紳一郎(アナウンサー) |
あらすじ
注:あくまでもフィクションであり、利用者についても実在の名前ではありません。
聖母子病院の看護部長・安田裕美子(薬師丸ひろ子)と理事長・速水啓二(綿引勝彦)は、熊本県内で相次ぐ嬰児遺棄事件に心を痛めていた。
二人の出した結論は、事情があって子育て出来ない親が匿名で赤ちゃんを預けられる施設を作ることだった。
とはいえ、そんな大それた前例はないため市や警察は全くとりあってくれなかったが、理事長と裕美子は「ただ、命を救いたいだけ」と根気強く訴え続けた結果、ただ一人その思いを理解してくれたのが熊本市長・片山幸文(佐々木蔵之介)だった。
反対意見も多い中で「こうのとりのゆりかご」はスタートした。
赤ちゃんを預けるために扉を開けると「お父さんへ お母さんへ」と書かれた手紙が現れ、手紙を取ると引き戸が開く仕組みになっている。
お母さんへ
今日、赤ちゃんを預けられるまできっとたくさん悩んでつらい思いをされたことでしょう
赤ちゃんは無事にお預かりしますので、どうか安心してくださいね
そしていつでもいいですからどうか私たちに連絡してきてしてきてください
あなたと赤ちゃんが一番幸せになれるように一緒に考えさせてください。
そんなある日、妊娠したことを誰にも打ち明けられず自宅で出産した高校生・新山歩美(有村架純)が訪れる。
高校を卒業したら子供の父親と結婚するから、それまで病院で育てて欲しいというのだが・・・
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見どころ
オープニングにこのドラマの趣旨を安住紳一郎(TBSアナウンサー)さんが解説するところから物語が始まります。
テーマがテーマだけに、ともすると重たいドラマかなと思いきや、終始愛情にあふれた温かいドラマに仕上がっています。
看護婦さん役の3人(江口のりこ、安藤サクラ、南明奈)はそれぞれ個性的ですが、良い意味で庶民的というか本当の看護婦さんのような雰囲気をかもしだしています。
婦長役の薬師丸ひろ子さんは、婦長らしい強さを持ちながらも母親としての愛情にもあふれ、病院の管理者にはぴったりの女優さんです。
意外なところでは、なんとあの有村架純さんがたった一人で出産する高校生役というのもびっくりですが板についていましたよ!
ストーリーの中で、「赤ちゃんを見ればみんな笑顔になる」というフレーズがありますが本当にそのとおりで、赤ちゃんにふりかかる辛い現実を強調するのではなく、子供たちが私達にくれる幸せを描いているて、とても後味の良い作品でした。
「医療ドラマまにあ」としての感想
当初赤ちゃんポストは、「産んだ子供を匿名で預ける場所があると、望まない妊娠を防止する為の自衛をしなくなる」という理由で反対意見も多かったといいますが果たしてそうでしょうか。
ほとんどの女性には母性本能というものが備わっていて、望まない出産をしたとしても我が子は可愛くて、ポストに置いてくるなんて普通はできないはずです。
それにどんな境遇で生まれてきた赤ちゃんも、大人になれば宮津くんのように「生まれてきてよかった」と思うのではないでしょうか。
それにしても「我が子を産む」ことに対しての相談件数ってすごく多いんですね。
人それぞれ事情があって十把一絡げに「親の責任でしょ!」とは片付けられないと思いますが、生まれてきた我が子の顔を見た瞬間、「育てない」なんて選択肢はなくなるはずなんですけどね。
女性なら誰しも心にささるものがあるドラマですよ。
※2022.6月現在