作家であり医師でもある大鐘稔彦原作の『孤高のメス』は2010年に映画化、2019年にはテレビドラマ化され、当時すでに第一線を退いていた、タッキーこと滝沢秀明さんの最後のドラマということもあって注目を浴びました。
この作品自体は、1989年に行われた日本初の生体肝移植という実話に沿ったもので、一種ドキュメンタリーを思わせる本格的医療ドラマです。
今回は、ドラマのあらすじやキャスト、見どころをお伝えしながらタッキーの勇姿を振り返ってみましょう。
ぜひ、脳裏に焼き付けてください!
連続ドラマW「孤高のメス」
放送日 | 2019年1月13日~3月3日 日曜 22:00 – 23:00 |
原作 | 大鐘稔彦『孤高のメス-外科医 当麻鉄彦』 (幻冬舎文庫) |
脚本 | 前川洋一 |
監督 | 内片 輝 |
音楽 | 羽岡 佳 |
ロケ地 | 東京医科大学 八王子医療センター 神奈川工科大学 神奈川県衛生看護専門学校 帝京大学 麻布総合病院 長生会 長生病院 町田市民病院 他 |
制作 | WOWOW |
医療監修・医療指導
◆医療監修
島津 元秀(医療法人社団幸隆会 多摩丘陵病院)
◆医療指導
中澤暁雄、山本昌督、斎藤 学、徳川友彦、佐野 達、栗栖 茂、根本千草
◆看護指導
植野永子、田中智子、森 彩香
キャスト
役名 | キャスト | 役柄 |
---|---|---|
当麻鉄彦 | 滝沢秀明 | 甦生記念病院外科医長。ピッツバーグ大学で肝臓移植を多数経験し帰国。誤診により兄を亡くしている |
実川剛 | 仲村トオル | 近江大学医学部助教授。ケンブリッジ大で肝移植を学んだ |
青木隆三 | 工藤阿須加 | 近江大学の医局から甦生記念病院に派遣されている若手外科医。当麻を慕っている |
島田光治 | 石丸幹二 | 甦生記念病院院長 |
大川松男 | 長塚京三 | 甦生記念病院のある湖西町町長。末期の肝硬変を患っている |
大川翔子 | 山本美月 | 町長の娘。甦生記念病院で看護師をしている |
大川頼子 | ただのあっ子 | 町長の妻 |
野本六郎 | 宮川一朗太 | 甦生記念病院前第二外科医長。近江大学医学部から派遣されているが、オペは下手だし性格も傲慢で患者やナースから疎まれている |
卜部太造 | 利重剛 | 近江大学医学部外科学教室教授。退官後のポスト探しに余念がない |
徳武耕三 | 六平直政 | 阪神大学医学部外科教授であり肝移植研究会会長。脳死肝移植を行った当麻を研究会から除名した |
三郷洋一 | 近藤公園 | 近江大学医学部の小児外科医。当麻や実川たちと生体肝移植に望む |
上坂喜一 | 三浦誠己 | 京阪新聞社会部の記者。野本とつるんで肝臓移植をリークする |
武井静 | キムラ緑子 | 青木の学生時代の恩師。息子が交通事故で脳死宣告をうける |
あらすじ
第1話
1989年6月、アメリカピッツバーグ大学で「臓器移植の父」といわれる、スターツル博士の元で肝臓移植を学んだ当麻(滝沢秀明)は、昔の先輩が院長をしている「甦生記念病院」に赴任した。
時を同じくして近江大学病院でも、実川(仲村トオル)という天才外科医が着任。2人はいまだ認められていない日本の脳死肝移植を定着させるべく奔走する。
1926年3月11日~2017年3月4日。アメリカ合衆国の医学者、外科医。ピッツバーグ大学教授
1967年、コロラド大学で肝臓移植を世界で初めて成功させた。現在、移植医学で確立されているシクロスポリン、タクロリムス、シロリムスの使用はスターツルの研究成果であり、「臓器移植の父」と呼ばれた
第2話
甦生記念病院第二外科医長の野本(宮川一朗太)の手術ミスをリカバリーするために、近江大学から実川がかけつける。
術中、野本が全く使い物にならないと判断した実川は、当麻に執刀を交代するように指示。当麻の実力を目の当たりにした実川は、近江大学教授の卜部(利重剛)に臓器移植の話を持ちかける。
その矢先、甦生記念病院の食堂で働くキヨ(鷲尾真知子)が交通事故で搬送された。肝臓の損傷が酷く移植しか助かる道がない。
来月行われる娘の結婚式を楽しみにしていたキヨを何とか助けたいと願う当麻だったが・・・。
第3話
当麻は甦生記念病院につとめる看護師の翔子(山本美月)に頼まれて、彼女の父で湖水町の町長でもある大川松男(長塚京三)の往診に向かっていた。
一方、近江大学では先天性胆道閉鎖症の7才の男の子、空也が生死の境をさまよっていた。肝臓移植をすれば助かる可能性が高いが日本では認められていない。
諦めきれない実川は、空也の父親から肝臓の一部を切り取り移植するという「生体肝移植」を決意。反対する院長を後目に、当麻に連絡を取り手術を手伝ってくれるように頼む。
生まれて間もない赤ちゃんに発症する肝臓および胆管の病気。
胆汁の通り道である胆管が、生まれつきまたは生後間もなく完全につまってしまい、胆汁を腸管内へ排泄できない。
第4話
日本初の生体肝移植を秘密裏に行うことが決定。当麻がドナー肝の切除、実川が移植を担当する。移植チームには最近オペの腕をあげた青木(工藤阿須加)も加わることに。
手術日当日、当麻と青木が近江大学に向かう途中、当麻の母親が倒れ危篤だと知らせが入る。
その頃近江大学では、実川に助教授の座をとられて憤慨している野本(宮川一朗太)がリークした京阪新聞の記者、上坂(三浦誠己)が病院に詰め寄っていた。
第5話
空也ちゃんの手術は無事成功したが、次から次へと押し寄せる拒絶反応にスタッフは疲労困憊していた。
当麻はドナーの父親から肝臓を切除し、実川にバトンタッチした段階で熊本の実家に向かったが、臨終には間に合わず涙に暮れた。病院に戻った当麻は実川と共にマスコミに叩かれる毎日。
一方、町長の大川も肝硬変が進行し予断を許さない状況だったが、どうしても父親を助けたい娘の翔子(山本美月)は「自分の肝臓を使ってほしい」と当麻に申し出る。
第6話
当麻(滝沢秀明)は、卜部(利重剛)の発言により病院内外で非難の的になっていたが、「目の前の患者を救うのが医者の務め」と信念を曲げない。
そんな当麻の態度が肝移植研究会会長の徳武(六平直政)の耳にも入り、せっかく糸口をつかんだ肝移植の道が閉ざされてしまう。思い通りにいかない現状に実川(仲村トオル)も憤慨していたが、卜部の言う「やりたいことをやるには権力が必要」という言葉をひしひしと感じていた。
そんなある日、青木(工藤阿須加)の学生時代の恩師である武井静(キムラ緑子)の一人息子が交通事故に遭い脳死状態に。彼は医師を目指しており、自分が万が一の時にはドナーになる意思があることを口にしていた。
その頃近江大学には「ウィルソン病」を患い助かる方法は肝臓移植しかない患者がいた。ドナーを願い出る家族がいて、肝臓移植をすれば助かる命が目の前にあるのに「法律」という壁に阻まれてどうすることもできない。
このままでは日本の移植医療は夜明けを見ないと決心した当麻だったが・・・。
銅が、正常に肝臓から胆汁中・腸管中に排泄されず、肝臓・脳・腎臓などに蓄積することによって肝臓や神経などに重い障害を引き起こす病気。発症率は3万人~4万人に1人といわれ、日本では1500人の患者がいるといわれています。
第7話
卜部教授(利重剛)が急死した。今回の騒動で心労がたたったのだと思われた。実川は次期教授選に立候補。自分が教授になれば肝臓移植が進めやすいと考えたからだ。
「その夢を実現するために今は無茶はできない」と実川らしからぬ発言に戸惑う当麻。
そんな折、大川町長(長塚京三)が吐血し甦生記念病院に救急搬送される。それまで移植を頑なに拒んでいた町長だったが、武井静(キムラ緑子)に「息子の肝臓をもらってほしい」と懇願される。
最終話
当麻は自分の医師生命と引き換えに、秘密裏に大川町長の脳死肝移植を決行することに。ただし、教授選を間近に控えている実川の協力は得られないため、摘出も移植も当麻が一人で行うしかなかった。
手術当日、野本医師(宮川一朗太)から情報を仕入れた京阪新聞の上坂(三浦誠己)によって公にされてしまう。
後日当麻は、徳武(六平直政)に呼び出され謝罪を求められたが、臆することなく自分の信念を貫くと同時に、立ち遅れている日本の移植医療について批判するのだった。
一方、見事教授選を勝ち取った実川は、当麻を「近江大学の助教授として迎えたい」と誘うが、自分の居場所は大学病院ではないと考え、故郷の熊本に帰る決心をしていた。
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見どころ
タッキーの勇姿
最後のドラマ出演に相応しく、彼の真面目で凛とした表情はまさに「外科医」を彷彿させるものでした。
オペのシーンも相当練習されたのだと思いますが、外科の先生たちが良く言う「糸結び」のシーンも手慣れたものでしたよ。
工藤阿須加の研修医は見事
最初は「工藤阿須加」が研修医?と思いましたが蓋を開けてみればバッチリ!まだ大学医局に染まってなくて素直で自信なさげな様子を見事に演じていました。
また、当麻先生のオペを間近で見て憧れを抱き、野本先生(宮川一朗太)に意地悪されながらも医師として成長していく姿に毎回エールを送っていました。
宮川一朗太の憎まれ役が花を添えた?
このドラマの「悪者」は宮川一朗太さん演じる野本先生。医師としての腕は悪いのに野心だけは人一倍。
教授の椅子を狙っていたのに、実川(仲村トオル)が近江大学に来たことで地方病院に飛ばされたという、何ともお粗末な先生です。
幼気な青木くんをいびるわ、極秘手術の情報を新聞社にリークするわ、自分の手術ミスを実川にやり直させるわと非常にムカつく男ですが、それだけにタッキーの好青年ぶりが際立ったと考えれば、さすが名俳優さんだってことですね。
最後に
連続ドラマW「孤高のメス」は、いわゆるWOWOWオリジナルドラマで、映画版「孤高のメス」とは若干内容が異なります。
どちらも「目の前の命を救う」というまっすぐな信念を持つ医師であることは同じですが、いかにも優秀で真面目な好青年というタッキーに比べ、映画版の当麻先生(堤真一)のほうが、ちょっとぬけてて親しみがある先生という印象です。
その証拠に、オペ中に流すBGMがタッキーは「クラシック」、堤さんは「都はるみの演歌」ということからも人物像の違いがわかるでしょう。
ただしドラマのほうが当時タブーとされていた「生体肝移植」「脳死肝移植」に多く時間を割いています。
もちろん放映時間の関係もあると思いますが、頭の固いお役人たちによってなかなか進まない移植医療に一石を投じたことは言うまでもありません。
日本の移植医療が遅れたのは、半世紀以上前に心臓移植を強行した「和田移植」が原因だと非難されていますが、それでも誰かが「はじめの一歩」を踏み出さなければ何事も進んでいかないのでしょうね。
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